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このタイガーロールでは、ライフリズムナビのユーザー様からご報告頂きました、認知症のBPSD症状の軽減につながったライフリズムナビの活用事例をご紹介します。
睡眠不足の把握やデータに基づいた服薬提案を通じて、ご入居者 M様の睡眠時間の増加や暴言・暴力行為の削減といった症状が改善された事例となっております。
睡眠データの見方や、同様の症状を抱えるご入居者へのアプローチ方法として、ぜひご参考にしていただき、お役立てください。
※お客様から伺った内容を記載しております。特定の疾病や症状を診断したり、また治療などを行ったりするものではありません。
課題
- ご家族様からの外部サービス利用や服薬追加の拒否
- ご入居者のBPSDによる外出希望や暴力・暴言の発生
- ご家族様がご入居者の状態を理解できていないこと
- ご入居者が外出したい理由と現実の乖離による混乱
ライフリズムナビ活用内容
- 睡眠不足の把握と分析
- データに基づいた服薬提案をご家族様へ行う
成果
- 睡眠時間の増加
- 暴言、暴力行為の削減
- ご家族様の理解促進
- スタッフの心理的負担の軽減
M様 人物像
年齢 | 89歳 |
入居時の自立度 | 自立 |
介護度 | 2 |
認知症の種類 | 短期記憶障害あり(確定診断なし) |
入居経緯 | 三叉神経痛による歩行困 |
日常生活自立度 | Ⅱa(杖歩行) |
服薬 | なし |
性格傾向 | 怒りっぽく、他者(スタッフ)に対して暴言があった |
認知症症状 | 確定診断は出ていなかったが、認知症の周辺症状あり |
M様の事例の発端
2023年2月当時、M様は入居当初から怒りっぽい性格で、思い通りにならないと声を荒げることがあり、他のご入居者に対して演説をすることもあった。また、M様は在宅時から膝痛を抱えており、施設内では杖を使って歩行していた。この膝の痛みに対して、ホームとご家族様の間で薬の処方について検討していた。
しかし、ご家族様はM様の状況を理解せず、薬の処方に納得していなかった。そのため、ホームとご家族様の間で調整が難航し、M様の課題に対する適切な対応ができない状況が続いていた。
外出希望の対応方法についての話し合い
そんな中、M様は頻繁に外出したいという希望を示していたが、ご家族は安全を考慮して外出を制限していた。この認識の食い違いにより、スタッフはM様が他のご入居者とエレベーターを利用して外に出ようとしないか確認したり、エレベーターをロックして利用できないようにし、スタッフは階段を使用するなどの対応を取っていた。
M様の要望に対して十分な対応ができず、スタッフも心苦しい思いをしていた。時にはエレベーターの前で待機しているM様に声をかけると、立腹されることもあり、認知症の周辺症状が現れていた。また、ご家族の認知症の症状の理解が進まず、ホームは対応に苦慮していた。
ご家族様の要望(M様を外に出さないで欲しい)に対して、ホームとしての対応方法について話し合いが行われた。話し合いの中では「万が一外に出て何かあった時に、ホームはどう責任を取るか」という点が焦点となった。
ご家族様からは施設側でGPS端末を使用し、対応してほしいという希望があったが、ホーム側では、GPS端末での所在確認の対応は難しく、ご家族様に対応いただくのが望ましいと考えていた。M様の外出希望への対応にも難航し、話が進まない状況だった。
睡眠ログに着目したことでの気付き
M様の課題に対して、なかなか解決策が見つからない中で着目したのがライフリズムナビだった。ふと睡眠ログを見るとベッド上で眠れていない日が見受けられた。
そこで、「睡眠が取れていない時に、何か因果関係があるのではないか?」と仮説を立て、頻繁に外出の希望がある日や興奮している日の睡眠状態を確認した。
すると、仮説の通り、眠れていない日の翌日に立腹したり、落ち着かない日が多く見受けられた。そこで、夜間の睡眠に注目したアプローチを検討するようになった。
睡眠ログから仮説を立てたアプローチを開始
①安定剤の服用
怒りっぽくなるというのは認知症の周辺症状であり、M様が辛い状態であるということをご家族様に理解していただき、看護師からご家族様に安定剤服用の相談を実施。
説明の際には、ライフリズムナビのデータを元にご家族様へ状況を説明することで、相談に乗ってくださり、メマリー錠(安定剤)の服用を始めることができた。
ライフリズムナビ活用ポイント
- 睡眠ログで睡眠の課題を可視化し、根拠に基づいた把握
- ご家族様への報告
- 医療スタッフとの処方相談
②ベッドでの睡眠促進
睡眠に注目する中で、ライフリズムナビの記録にはベッドでの睡眠がないことが多く見受けられた。
【2月の睡眠ログ】
夜勤スタッフに確認すると、M様が椅子で寝ていることが判明した。そこで、スタッフ間で統一した声掛けを行い、M様にベッドでの睡眠を促すアプローチを開始した。
ライフリズムナビ活用ポイント
- 睡眠ログのグラフで眠れている日と眠れていない日を確認
- 介護記録など他の情報と照らし合わせて不眠の原因を特定
- 睡眠の変化をモニタリングしてアプローチの評価
③ご要望に対する徹底的な対応
他事例にて、ご入居者の要望に徹底的に対応することで、必要な要望への対応のみに落ち着き、雰囲気が明るく穏やかに改善されたという事例があった。
この事例を参考に、M様の外出要望に対して、定期的な外出同行をすることにより、M様の気持ちが落ち着かれるきっかけになるのでは無いか?との仮説を立ててご家族様に提案を実施した。
当初は外部サービスを利用した外出を提案していたが、ご家族様からの懸念があり承諾を得られなかった。しかし、ホームのスタッフの同行による外出ならば安心できるという意見が出て、アプローチを開始した。
アプローチによりご入居者に現れた変化
その結果、M様から外出要望があった場合は、時間を確保して対応するようになった。最初は何度も同じ要望を繰り返され、外出後もそのことを忘れて再び同じ要望をされることがあった。
しかし、継続的なアプローチにより、ご入居者に変化が見られるようになった。要望があった際に外出同行が難しい場合でも、「⚫︎日にお約束しましたよ」と伝えると、ご本人様が覚えてくださるようになり、興奮することなく納得されて部屋に戻られるようになった。
アプローチを開始してから2か月ほど経つと、帰宅願望や興奮する頻度が減り、穏やかに過ごされるようになった。また、声を荒げるといった症状もほとんど見られなくなった。
【4月の睡眠ログ】
ベッド上で6〜7時間程の睡眠が安定して取れるようになった。
この取り組みにより、スタッフの負担にも変化が見られた。
当初は、M様がエレベータの利用を制限する対応にうしろめたい気持ちや、声を荒げて怒られることへの恐怖感があった。
しかし、現在は、M様が外出しようとすることがなくなり、行動の制限をすることがなくなった。また、穏やかに過ごされているため、スタッフも怒られる恐怖がなくなり、負担感が軽減された。
まとめ
この事例では、センサーデータを分析し仮説を立てることで、睡眠と外出要望の関係性の発見に繋がり、効果的なアプローチが見つかりました。具体的な対策を実施したことで、認知症症状によるBPSDの改善や外出要望に応えられるようになり、穏やかにお過ごしいただけるようになりました。
データの活用と仮説立てによるアプローチを実践することで、ケアの質を向上させることに繋がります。今回の事例を参考にセンサーデータを活用し、ご利用者様へのケアにお役立てください。
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